AI、楽譜自動変換精度を向上
フランスの研究者らがMIDIデータから正確な楽譜記号を自動生成するアルゴリズムを開発した。音楽教育・文化保存・エンタメ産業における楽譜デジタル化コストの大幅削減が期待される。

パリ国立情報学・自動制御研究所(Inria)のAugustin BouquillardとFlorent Jacquemardは、MIDIフォーマットの音楽データを入力として、適切な音名・調号・各小節の音階を自動的に推定するアルゴリズムを発表した。論文はarXivに公開されている。
従来、演奏録音から楽譜を起こす作業は専門的な音楽知識を持つ人間が担ってきた。特にジャズのような即興演奏では、複雑な和声進行や変化記号(シャープ・フラット)の扱いが難しく、熟練した編曲者や音楽学者による手作業が不可欠であった。この工程は時間と費用の両面でボトルネックとなっており、大規模なデジタルアーカイブ構築の障壁となっていた。
今回提案された手法は「モーダル段階」と「トーナル段階」の二段階最適化で構成される。最初の段階では最短経路探索を用いて各小節の音階を推定し、楽譜上の変化記号数を最小化する。次の段階でその結果を参照し、楽曲全体に最適な調号と音名を決定する。評価はReal Bookのジャズ・リードシートやジャズソロ・ベースラインの録音起こし、伝統音楽、クラシックピアノおよび単旋律楽器の楽譜など多様なデータセットで実施され、高い精度が確認された。
ビジネス上の影響は複数の産業に及ぶ。音楽出版業界では、絶版楽譜や未整理音源のデジタル化を大規模に進める際の人件費削減が直接的なKPI改善につながる。従来は1曲あたり数時間を要した音名付与作業が自動化されれば、カタログ整備の速度が飛躍的に向上し、ライセンス収入の拡大にも寄与する。
音楽教育プラットフォーム企業にとっても有益である。ギター・ピアノ学習アプリや楽器練習支援サービスは、ユーザーの演奏をリアルタイムにMIDI変換して楽譜表示する機能を持つ製品が増えている。本アルゴリズムの組み込みにより、表示される楽譜の音楽的正確性が向上し、ユーザー継続率や満足度スコアの改善が見込まれる。
文化・アーカイブ分野では、ジャズやフォーク音楽の文化遺産保護を目的とした公的機関やNPOが恩恵を受ける。研究者らも論文中でジャズソロのデジタルコレクション構築を主要な応用例として挙げており、音楽分析・教育・文化保存の三つの目的を同時に支援するツールとして位置付けている。図書館や博物館のデジタルアーカイブ部門では、整備済みコンテンツ数や検索可能楽曲数といったKPIに直接影響する。
ゲームやメタバース向けに動的に楽曲を生成・表示するエンターテインメント企業にとっても、プロシージャル音楽生成の出力を正確な楽譜形式へ変換する工程での活用が考えられる。音楽制作ソフトウェア(DAW)ベンダーは、既存のMIDI編集機能に組み込むことで製品差別化が可能となる。
今後の課題として、多声部(ポリフォニック)楽曲への対応拡張が挙げられる。現状の評価はリードシートや単旋律スコアを中心としており、オーケストラ編成や複雑な和音を含む楽曲への適用には追加研究が必要である。また、研究チームはジャズ音階間の新たな距離指標も定義しており、音楽理論研究や自動作曲システムへの応用も期待されている。商用化に向けては、既存の音楽制作エコシステムとのAPI連携の容易さが普及の速度を左右するとみられる。
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