世界モデルでAIが自己改善、実験回数を抑制
研究チームは、予測モデルで次の行動と学習データを選び、AIの方針と予測器を更新し続ける枠組みRSI-Anythingを発表した。外部評価の費用を抑えつつ性能を高める道筋を示した。

研究の概要
Cui氏らの研究チームは、AIが自らの経験を永続的な改善へ変える再帰的自己改善(RSI)の枠組み「RSI-Anything」を発表した。課題は二つある。人間による評価やテスト実行といった外部フィードバックには費用がかかること、そして方針(ポリシー)が変化するにつれ、世界モデルの予測が実態からずれて信頼できなくなることである。
論文によると、コード修正ではコーディングAIを固定したまま、検証器を静的に使う場合の成功率26.3%が、予測に基づく候補選択で29.2%、世界モデルの適応後に31.2%へ上昇した。テストの使用量は同程度である。GUI操作の評価では、タスク完了率が高まる一方、平均操作数は39.4%減少した。実験室計画では、五世代の方針更新を通じてスコアが21.80%から46.01%へ倍増以上となった。反応最適化では、40回の実験という同一予算で、ベイズ最適化の平均最良収率82.16%に対し96.15%を達成した。免疫科学では、ワークフローの進化と予測モデルを治療仮説の生成まで接続した応用も示された。
しくみをやさしく
基盤は、予測型の世界モデルを扱う「JEPA-Anything」である。世界モデルとは、ある行動を取ると結果がどうなるかを、実際に試す前に見積もる予測器である。RSI-Anythingはこの予測を二つの場面で使う。一つは、複数の候補行動のうち実際に試すものの選択、もう一つは、どのデータを学習に回すかの選択である。
実際に得られた結果は二方向に使われる。方針やワークフロー自体の改善と、世界モデルの条件付き適応である。方針が変われば遭遇する状況も変わるため、予測器を古いまま使うと外れ始める。そこで予測器も観測結果に合わせて更新する。
もう一つの要点は、更新の採否を管理する仕組みである。更新後の方針と世界モデルの組について、部品ごとの検査と、両者が整合するかの互換性検査を行い、通過した組だけを保持する。改善を重ねても性能が悪化する更新を取り込まない、一種の品質ゲートである。
ビジネスへの示唆
中心となる発想は、高価な本番評価の前に安価な予測で絞り込むことである。読者はまず「自部署で、試行に費用や時間がかかり、しかも繰り返し発生する業務は何か」を考えるとよい。
- ソフトウェア開発部門:不具合修正で、テストの実行コストが高い案件。修正成功率とレビュー往復回数が動く可能性がある。
- 情報システム・業務改革部門:定型的なGUI操作の自動化(RPA)。手順の短縮により、処理時間と運用の保守工数が下がる可能性がある。
- 化学・素材・製薬の研究開発部門:配合や反応条件の探索。少ない実験回数で良い条件に届けば、開発リードタイムと実験コストの削減につながる。
特に実験が一回ごとに高額な分野では、同じ予算でより良い結果を得られる点が直接の価値となる。現在その探索を誰がどの程度の手間で担っているかを確認することが、適用可否の判断の出発点である。
現場での導入イメージ
仮に導入支援に入るなら、次の流れが現実的である。
- 棚卸し:試行回数が制約になっている業務を洗い出す。テスト実行、実機実験、画面操作の失敗など、手戻りの多い箇所を可視化する。目指す到達点は、効果が出やすい業務の優先順位を共有することである。
- 差し込み先の設計:新しい基盤を作らず、既存のCI、RPA、実験記録システムやRAGに予測による事前選別の層を足す。目指す到達点は、現行の運用を変えずに候補を絞れる状態である。
- 小さく試す(PoC):一部署で数週間、過去ログを使って予測の当たり具合を確かめ、担当者の実感で効果を評価する。目指す到達点は、小さく安く始めても価値を確認できる状態である。
- 運用と横展開:予測のずれを監視し、更新を採用する基準を整えたうえで他部署へ広げる。論文の互換性検査に倣い、悪化する更新を止める関門を置く。目指す到達点は、改善が積み上がり後戻りしない運用である。
全体として目指すのは、現場の試行錯誤の履歴が、人手を介さず次の判断精度へ変わる業務環境である。
今後の展望
結果は論文内の評価環境で得られたもので、自社データでの再現性は別途確認が必要である。それでも、予測器を方針とともに更新し、採否を検査で管理する設計は、実験や検証の費用が重い産業にとって実務的な指針となりうる。
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